別室 野原のギター部屋 Vol.10 "swing low sweet Bigsby"

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すっかりご無沙汰しておりますが皆様いかがお過ごしでしょうか。ひっそり連載中の"島村楽器ミーナ町田店 別室 野原のギター部屋"も無事10回を迎えることができました。これもひとえに皆様のご愛顧とご支援によるものと深く感謝しております。
「たかが10回で大袈裟な」というお声も聞こえてきそうですが...
さて、そんな記念すべき10回目のブログは素敵なトレモロユニットのお話です。

Bigsby True Vibrato Tailpiece

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1964 Gibson ES-335TDC Factory Bigsby and Factory Stop-tailpiece

1940年代、ロサンゼルスのバイクショップ"Crocker Motorcycle Company"に勤める熟練のクラフトマンPaul Bigsby氏。ある日親交のあったMerle Travis氏(Country & Westernのシンガー/ギタリスト )が「チューニングが安定しないヴィブラートを直して欲しい」とGibson L-10を持って来ます。「何でも直せますよ!」と答えたBigsbyはMerleの提案もあって新しいメカニズムを取り入れたヴィブラートをデザインします。このデバイスが後のスタンダードになり、世界中殆どのギターメーカーが搭載することとなります。

はい。そうなんです。

Bigsby Vibrato Tailpieceは楽器関係の技術者ではなく、音楽好きのバイク技術者がデザインし作製したヴィブラートユニットなのです。もうこの史実だけで格好良い!と思ってしまうのは私だけでしょうか。

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Bigsbyは砂で作られた型にアルミを流し込むサンドキャストと呼ばれる製法で作られます。BigsbyのブランドロゴとパテントNo.以外の部分が一段低くデザインされており、黒くペイントされています。

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トレモロアーム(Whammy Bar)とその下にあるアームブラケット(アームとスプリングの間にあるパーツ)、弦のボールエンドを掛けているシャフトが連動して動く"スプリング式サスペンション構造"を採用しています。
画像のBigsby(B-7)はボディトップに固定するビス(ネジ)にボディエンド部と共通のPan head screw(なべ小ねじ)が使用されています。これは1960年代頃までのBigsbyに見られる特徴で、近年のものになるとボディトップ用に専用のビスが用意されます。

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2016 Gibson Historic Collection 1963 ES-335 Block Reissue VOS Bigsby

画像右は2016年に作られたES-335(Nashville Factory製)に取り付けられているBigsbyです。ボディトップに固定するビスはRound dish small screw(丸皿小ねじ)が使われており、ビスの頭がユニットに埋まっています。

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アームを上下することによってスプリングが伸縮を繰り返し、回転するシャフト(ヴィブラートシャフト)がヴィブラート(トレモロ効果)を生み出します。ストラトのトレモロユニット(Synchronized Tremolo)よりも可変域(=音程差)は狭くなりますが、その独特の掛かり具合は多くのプレイヤーを魅了してきました。

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弦とスプリングを外してみると、アームブラケットに穴が開いているのが分かります。この穴の中には黒いSet screw(イモネジ)が入っており、アームブラケットとヴィブラートシャフトを固定しています。

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手前の小さなパーツがイモネジです。アームブラケットを外すとヴィブラートシャフト側にも穴が開いているのが分かるかと思います。

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アームバーとアームブラケットはナットで固定されており、間に小さなスプリングが入っています。ナットの締め具合でアームバーの滑らかさが調節できるのですが、バイク職人ならではの秀逸なデザイン、そのアイディアに脱帽です。

気になるチューニングの安定性に関してですが、他の非ロック式トレモロユニットとそんなに変わらないかなと個人的には思います。アームダウンをした後スプリングの力でアームバーが元の位置まで押し上げられますが、その際にほんの少し(本当に僅かな力で)アームバーを持ち上げるとチューニングが戻ります。「アームバーを持ち上げる」よりも「アームバーを持ち上げる方向に僅かに力を入れる」の方が表現としては適切かもしれません。

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ヴィブラートシャフトをボディエンド側から見た画像です。シャフトの各弦の下に穴が開いているのが確認できます。これは弦(ボールエンド)を掛けるピンをシャフトに固定するためのものなのですが、古い時代のBigsbyにはあって近年のBigsbyにはありません。前述のボディトップのビスと合わせて知っておくと年代物のギターを見る時に少し便利です。

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2016 Gibson Memphis 1963 ES-335 VOS Bigsby

こちらはMemphis Factory製のES-335に搭載されているBigsbyです。ご覧の通りヴィブラートシャフトの穴はありません。VOSフィニッシュのギターに搭載されているため軽いAged加工が施されていますが、成型や研磨を含む加工技術が向上しているためユニット全体が綺麗に見えます。

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ボディエンド側の様子。ストラップピンを露出させる形で4点のビスで固定されています。

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Bigsbyが搭載されたギターの弦アースはストラップピンの上の位置にあります。通常Gibsonのギターなどはテールピースのスタッドアンカーの下にアース線がきていますので、Bigsby(B-7など)に換装する際は画像の位置(Ground Wire)からコントロール部にロングドリルで穴を開け配線し、一端をギター本体とBigsbyで挟み込む形で通電させます。

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B-5, B-7などにはテンションバーがデザインされています。テンションバーは回転する仕組みとなっており、アーム使用時による弦の行き来がスムーズになるよう工夫されています。

Bigsbyの音について

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恐らく皆様が一番気にされているのがストップテールピースからBigsbyに換装した際の音の変化ではないでしょうか。画像のES-335は2本とも製造年が同じ物でテールピース以外は同じ仕様になります。この2本を同じ設定で弾き比べますとBigsbyの方がよりブライトに聞こえます。"ぎゃりん"と鳴るロックで粋な音とでも言いましょうか。一方のストップテールピースはタイトで艶のある音がします。以前Les PaulのストップテールピースをBigsbyへコンバートした際にも同様の音質の変化が見られましたので、個体差ではなくBigsby特有のキャラクターと言って差し支えないと思います。

音の伸び(サステイン)に関しましては昔から短くなると言われていますが、実感できる程の変化は無い様に感じます。長年Bigsby付きのギターを弾いてきましたが「あともう少し音が伸びてくれたら...」と思った事はありませんでした。弦を留めているパーツが変わっているわけですから音の伸び方にも変化はあって当然ですが、そこまでシビアに捉えなくても大丈夫かと個人的には思います。

さて、今回はBigsbyについて綴ってみましたがいかがでしたでしょうか。Bigsby好きの管理人としてはまだまだ掘り下げて書きたいところですが、一先ずBigsbyがどのような物なのかはご理解頂けたかと思います。
最近ではギターのボディに加工することなく簡単にBigsbyを搭載することが出来るデバイスも発売されていますので、ご興味がある方はご自身の愛機に載せてみてはいかがでしょうか。
また昔のGibsonと同じ様に載せたい方はぜひ私にご相談下さい。当時のGibson Factoryで行われていた様々なスタッドアンカーの処理の仕方をご案内させて頂きます。
「Paul McCartneyのCasinoに付いているBigsbyがちょっと違うんだけど...」みたいなマニアックな質問も大歓迎です。

それでは今回はこの辺で。

ギター部屋の管理人

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学生の頃よりバンド活動、レコーディングなど様々な場所での演奏とビンテージギターショップ巡りに明け暮れる。後にギタークラフトを学び島村楽器に入社。入社後は米国Fender社への買い付けなどを担当。甘いもの好き。

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店舗名 島村楽器 ミーナ町田店
電話番号 042-710-6088
担当 野原

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